Monday, 16 July 2012

L'année Dernière à Marienbad

いけない薬を飲んでふわふわとした白昼夢を見ているような気分になりました。

1961年公開、アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで』。

公開当時、難解な構成故に賛否両論飛び交ったという伝説の作品を
先日メゾンエルメスのル・ステュディオにて、初めて鑑賞してきたのです。




バロック風の装飾が所狭しと施されたとある城館。

ひとりの男が、氷のような美貌の女に何度も問いかけます。
「私を覚えていますか?」
男はさらに付け加えます。
「わたしたちは去年ここで出会い、愛し合い、一緒になろうと誓いました。
その約束どおり、あなたをここから連れ出すため、わたしはここへとやって来たのですよ。」

しかし女は答えるのです。
「そんな約束はした覚えがないわ。第一、わたしはあなたの顔すら知らないもの。」

全く取り合わない女に、男は食い下がります。
何度も何度も言って聞かせるのです。去年の自分たちの様子を。去年の自分たちの会話を。

現在の気だるい社交界の様子、
男が語って聞かせる過去の記憶、女が思い出しつつある(或いはつくり出された)記憶、
そしておそらく全てを知っている、女の夫の記憶。
これら全てが時間軸もバラバラに、ランダムに映し出されてゆく。

男と女は本当に一年前に出会っていたのでしょうか。
それはマリエンバートでのことだったのでしょうか。

夢か幻か、はたまた現実か。
本当のことはきっと誰にもわからない。

執拗に繰り返される男の独白、不気味に響くパイプオルガンの音、
とびきり豪華なのにどこか寂しげな背景、シャネルによるきらびやかなドレス、
ワンカットの中で何故か変容する部屋の装飾、
感情なく人形めいた人々、彷徨う幽霊のように浮遊するカメラワーク・・・

ラブストーリーというより、ミステリーというより
これは極上に美しいホラー映画でした。

さぁマリエンバートの迷宮へようこそ。

Saturday, 14 July 2012

L'Écume des jours


このイラスト。
恋人が肺に睡蓮の花を咲かせて死んでゆく・・・
コランとクロエの、あの物語を思い出しませんか。




Thursday, 12 July 2012

Chinese Lantern Plant Festival

 

8年も東京に住んでいるのに、今回初めて浅草ほおずき市へとやってきました。
約200年続く東京の夏の風物詩。
なんでも、ほおずき市の日に浅草寺へお参りした人は4万6千日分のご利益を受けて
一生無病息災で過ごせるのだとか。

平日にも関わらず人であふれ返った浅草寺の境内には100近いほおずき屋さんが並び
威勢のいい売り子の声が響いておりました。
ぷっくりと膨らんだ鮮やかな朱色のほおずきの実ってば、思わずつんつんと触りたくなってしまう愛らしさ。
例えその花言葉が「偽り」だったとしても!


IN DEED:CERTIFICATES OF AUTHENTICITY IN ART



今年の春から定期的にお会いしている方がいます。

ボブカットが可愛くて声が魔法みたいに優しくていつだっておしゃれで
ほわんとしていてたおやかで、うんうんとこちらの話を聞いてくれて
わたしの知らないことをたくさん知っている、とってもとっても素敵なお姉さん。

その方から先日、こんなかっこいい本を頂いてしまいました。
2011年にオランダ南部の街ミドルバーグで開かれていた
CERTIFICATES OF AUTHENTICITY IN ART展の図録です。

キュレーターによって厳選された、過去50年のうちに活躍した芸術家たちのアートワークと、
それらの作品に付随するインボイスやリーガルステイトメントがずらっと並んだ一冊。


わたしアート業界のことは全然わからないけれど。

芸術作品自体ではなく、それにくっついているドキュメントを展覧会の主役にしよう!
というそのアイディアには目からうろこが落ちました。
きれいに並べられ、見る人たちの目にさらされたその瞬間に、書類すらアートになるのであーる。

キュレーターらによる巻末の寄稿文
"White is the Color: The Conceptualization of the Art Space"
"Doodles, Deeds, and Claims"
"Authenticity in Art and Law: A Question of Attribution or Authorization"
"CERTIFIABLE"
は、さっと読んでみたら
芸術作品と証明書の関係が過去50年でどのように変わってきたのか、とか
アートビジネスの世界でサーティフィケートはどれくらい重要なのか、とか
なかなか勉強になりそうな内容が盛りだくさんだったので
これから辞書をひきひきじっくり読みたいと思います。

知らなかったことを知ってゆくのは楽しいことだね。




Sunday, 1 July 2012

AGATHA et les lectures illimitees

この前K'sシネマで、とてつもない映画を観てしまった。

あぁこれはどうやって言葉に書き留めればよいのだろうか
いっそのこと感想なんて書かないでおこうかなんて思ってはいたのだけれど
心の中に残っているその映画の余韻がだんだんぼんやり薄れていって
ある日ぱちんと消えてしまったのではあまりにも寂しいので
やっぱり自分のために、自分なりに、感想を残しておこうと思ったのでした。


その映画とはマルグリット・デュラスの『アガタ』。
フランス語のタイトルは『アガタ、終わりなき朗読』とでも訳せばよいのかな。

『愛人 ラマン』で世界にその名を知らしめた
フランスが誇る稀代の作家兼映画監督マルグリット・デュラスが、自身の著『死の病アガタ』を基にして
1981年に手掛けた異色の映画です。

色々な意味で実験的要素の強いこの作品はその極度な非商業性から当時の日本では公開されず
制作から21年目の2003年にやっと初公開にこぎつけたそう。
それからさらに9年経った今、新宿の小さな映画館で再び上映されています。


空と海とが溶け合ってくすんだ青色をしたトゥルーヴィルの浜辺の景色と
薄暗くて古びたホテル、そこで再会した兄と妹の様子がスクリーンに交互に映し出される。
そこから聞こえてくるのは
微かな波のさざめきと執拗に繰り返されるブラームスのピアノワルツ作品39第15番、
そしてどこまでも続いてゆくような男女の朗読の声だけ。
その映像と音は、完全に分離している。

妹は兄から遠く離れた場所に明日旅立つと言う。
兄は行かないでくれと懇願する。

「いなくなるなら僕を殺してくれ。」
「あなたを永遠に愛し続けるために離れるの。」

男女の会話が進むにつれて紐解かれてゆく兄弟の秘密。
ある夏の日若い兄妹に起こった、あってはならないはずの出来事が2人の在り方を変えてしまったのです。
もう二度と会うことはないであろう2人。それでも心から愛するのはお互いだけだと言う。

朗読の声の正体は
マルグリット・デュラス本人と、彼女より38歳年下だったパートナー、ヤン・アンドレア。
ヤンは朗読だけでなく映像でも兄役として出演しています。
元々デュラスの小説の大ファンで、5年間も彼女に手紙を書き続けていたヤン。
ある日彼女の滞在しているホテルまで会いに来るよう呼び出され
デュラスが亡くなるまでの約16年間、2人はずっと一緒だった---。

いろんな愛のかたち。
そう、この映画も、きっとそんないろんな愛のかたちのひとつ。

流れるように朗読される言葉はどれも美しくて、それがわたしをとてつもなく悲しくさせるのです。
その悲しみは、とても心地よい悲しみ。
広い海の上にひとりでぷかぷか浮いているみたいな。
(わたし泳げないけど)

いやぁ・・・すごい映画でした。